――徒然なるままに書きしものこそ、物の心や淡にあらむ…
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***
女は言った。
「あなたのようなコドモには、わからないでしょうねえ―――殺されたいほど、焦がれる思いだなんて…。」
女の表情はどこか寂しげであり、ワタシに対してなぜか憐れみを懐いているかのような眼をしていた。
「節張った手が、ゆっくりと私の首を絞める。或いは小太刀【ナイフ】で私の胸を突き、その手と眼【まなこ】に私を殺したという烙印を灼き付け、その一生を縛り付ける。または……嗚呼、もう、兎に角、あの人によってあの人の眼前でこの命が終わるなら、どんな死に方だって厭わないわっ!!」
狂っている。
女の恍惚とした表情に、ワタシはぞくっと震え上がった。だが、不思議と“怖い”とは思わなかった。
女は続ける。ワタシはそれを聞く。
「そしてね。殺したいほど、どうしようもなく愛しい気持ちだって、あなたは懐いたことなんて、ないんでしょう?」
ふ、と女は自らの頬に手を当て、妖艶に微笑んだ。
「愛しい人が、血走るほどにあらん限り大きく見開いた両目で、私を映す。『なぜ、なぜだ』、と。私はその“小さな鏡”に向かって、この世で最も美しい笑顔を手向けてあげる。そうすると、あの人は更に眼の端が切れるのではないかと思ってしまうほどに見開いて、瞳孔も限界を超えて開いて、絶望の色を示す。そうして憎しみが生まれる――あの人は、死んでも尚、永遠に、私を忘れられなくなる。」
天を仰ぎ見た女の眦から、つぅと透明な涙が零れ落ちた。ワタシはそれを見て確信する。
ワタシをコドモと言って憐れむ女の方こそ、可哀想で哀しいヒトなのだ。
女が語るそれは、女の欲しいモノ――ただの“欲しいモノ”ではない。手に入れたくても手に入れられない、求めたくても求められない“欲しいモノ”なのだろう。しかしだからこそ、女は欲しくてたまらないのだ。
ワタシの思考を他所【よそ】に、女は胸の前で軽く握った片手を他方の手で軽く包んで、軽く俯いていた。祈りを呟くように見えるのに呟いていることは祈りとは掛け離れた言葉を紡ぐ様子に、なんら違和感を覚えない。
女にとって、今この瞬間に紡いでいる言葉は、祈りにも等しい事柄だからだろう。飽くまで、女にとってだ。
女は流れる涙をそのままに、今度は強い眼差しを現した。
「狂っていると思われようが、そんなことどうだっていい。人道? 道徳? もっとどうでもいいわ、そんなこと。この世は修羅の世、穢れた人界―――もっと不条理なことなんて、いくらだってあるんですもの。無意味にも等しい。」
冷たいというよりも無機質な声のように感じる。ただ、女は強く言葉を発した。
「だからと言って、私はこの世を厭ったりしない。むしろ、私にとってこの修羅の世こそ、極上の“楽しみ”なのだから。」
口端をゆるやかに上げ、眼を不敵に輝かせて。
それでも、女から悲哀の空気が消えない。
ワタシは思い切って訊いてみた。悲しいから泣いているのか、と。
女は少し怒ったような口調で反論した。
「この涙を悲しさゆえですって? 寝言は寝て言いなさい。」
狂おしくてどうしようもない、喜悦と切なさの絶頂、その表れこそこの涙よ。
それを最後に女は口を閉ざして去って行った――。
Fin.
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