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――徒然なるままに書きしものこそ、物の心や淡にあらむ…
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アナタの記憶

ワタシの記憶

織り交ぜられてつくる 想ひ出
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「『防ぐため』? それは違うわ。お互い様でしょう、“俄かに発出する言泉による言語活動”に対する精神的興奮の異常さは。」
「お、ソレ。その言葉いいんじゃないか? 今度から“問答”じゃなくて“俄かに発出する言泉による言語活動”にしよう。」
「長いから却下。」
「それじゃ短縮して“言活”。」
「話を逸らさないで。」
「確かに、俺と君は互いの衝動という名のエネルギーを放出することでソレを相殺しているね。」
「前言改変を有難う。」
「どう致しまして。」
 言い終わって、それぞれ自身のカップに手を伸ばして口に運び、元の所に置く。同時に、二人はぷっと吹き出して賑やかに笑い出した。一人はふんぞり返って、一人は前屈みになって抱腹絶倒していた。

「いくらなんでも“会話”まで“間無し”にしなくたっていいでしょう? 今の場合、接続詞的一言は必要だったわ」
「なら、君だって真面目な顔して返さなくたっていいだろう?」

 くすくす…と笑い合って、一息だけ深く呼吸する。
 そうして彼女は窓の外へと視線を移す。
「でも…きっと“ワガママ”って言われるんでしょうね…私達が求めるものは…。」
「否定は出来ないね…。」
 そして、こういう達観しているかのように振舞う人間を“思い上がり”だとか言うのだろうな―――好きでそういう人間になったわけでないのに。
 彼の言葉に瞼を閉じることで彼女は応える。視界は、カラーから薄い肉越しの赤一色となる。

 二人の生活は、普通に「朝慌しく仕事や学校へ行って夕方・夜に我が家へと帰る」などという暮らしをしている人々にとって、ひどく堕落した生き方かもしれない。
 高校は卒業したが、その後は進学や就職をするわけでもなく、一日中部屋の中で話をしたりお茶を飲んだり本を読んだりするだけ。親の金での生活。それが申し訳なくて、偶にアルバイトをするくらい。
 好きで、そんな生活をしているわけではない。

 元々の二人の思考が世間と余りにかけ離れてしまっているがために、それを無理に抑えて生きると多大な負担となってしまい、前述のような現象を起こしてしまうのだ。偶に行うアルバイトも、本当は辛い。帰宅後の言語活動が半ば叫ぶような形で延々と朝まで続くことなど、ざらである。

 それでも、私達は社会と決別は出来ない。
 諦念を中心に据えながらも、私達以外の人間との接触を願い求めて已まない。

「人と接触しないで行える収入の得方を敢えて選ばないのは、そのため…。」
「『ヒトは一人では生きられない』。よく言ったものだね…」
「だから、『生ききれなければ死にきれもしない』生殺しの状態に在るのよね。」
「生命体としては生きているが、社会的には、死んでいる生き方、か…。」

 彼女は伏し目がちにティーカップの中身を眺め、彼は温くなった珈琲を飲み下す。
 そのまま五分ほどの沈黙が続いて、やがて、彼からその沈黙が破られた。
「生まれも…本来自由に決められる生き方も選べない、或いは選択肢が限られている。だけど、死に方くらいは選べるだろうか?」
「珍しくあなたから切り出されたと思ったら…。死に方を?」
「そうだ。」
 君こそ前置きを取った上に語尾を上げるなんて珍しい、と彼は付け加え、更に「そう考えてしまうのは、君にとってはタブーかい?」と言った。
 彼女は、コレは会話でしょうと返した上で、否と首を横に振った。
「そうね…死に方くらいは自由に選びたいわ。“殺人”は御免だけど。寿命で死にたいわ。」
「病気や事故とか?」
「事故は“殺人”の部類に入るものがあるでしょう? 限定して。」
「天災と人の関与のない事象」
「と言っても、人の干渉が根本的にない“事故”なんてないかもしれないわね。」
「ソレを言ったら、病気もそうだろう。自分の身体に起きることなんだ、その最たるものだろう?」
 あら、と彼女は目を見張った。
「それじゃ、なんだか、死に方も選べそうにないわね。」
「同感。」
 嗚呼、堂々巡りだ。すべては流転していくものでありながら繋がっている“輪廻”なのだ。その回り方が異なっていても、内部構造は何の変わりもなく、円輪なのだ。彼は初めて眩暈がしそうになった。
 だが、彼女は言う。
「この話は当分しないようにしましょう。散々話してきて今更言うのもと思うけど、所詮十九年と少ししか生きていないんですもの、私でも…私達でも、コレに関して一概に決め付けられないわ。」
「賛同するよ。他でもない、君の意見だ。年月で定められることとは思えないけど。」
「ええ、でも、少なくとも普通の生き方には近付くでしょう?」
 普通ならば誰もが行っている、“本当の疑問”を持っていく生き方に。
 時間の移ろいと共に次第に解け、老いる中で答えが熟成していく――そういう生き方に。 
 そうすれば、見てくれだけのマンションの一室も、流れているのか止まっているのか分からない時間も、閉鎖された空間でなくなるのだと、もう一度信じられる気がする。

「“生きて”くれるでしょう? あなたの意志で。」
「―――本当に、君の母に感謝するよ。…君こそ、君の意志で“生きて”くれるんだろう?」
 カップを持ち上げて、彼はそれを彼女へと向ける。彼女も彼と同じように、自分のティーカップを彼へ差し出した。
 彼女は、ふっと笑った。
「その末に、お互い、いい“死に方”が出来るといいわね。」

 手のカップはその行為には不似合いではあったが、新たな成約の杯がカチンと鳴った。
 冷め切った珈琲とミルクティーは飲み干され、二つのカップには新たにレモンティーが淹れられる。二つの皿の上にそれぞれあったチーズケーキは跡形もない。
「今度一緒に“Carnelian”へ行きましょう。マスターがおいしいお茶とスイーツをご馳走してくれるわ。」
「マスターも仲間かい?」
「いいえ。耳順のお年齢【とし】のマスターは、“生き方”の鑑よ。ちっとやそっとじゃ動じないもの。」
「それなら“楽しみ”だ。」
 “因”がなければ“果”も生じないってね。
 やがてそれぞれ二つ目のチーズケーキへと手を伸ばす。


 レモンティーは静かにカップの中に納まっていた。



fin.


「『死』を恐れない人間の増殖が目に余るね。『他者の死に土足で関わることのリスク』を省みなかったり、『死ぬことで救われる』という考えが過ぎたカタチで蔓延しているように思う。」
「私の主観的思考から言えば、どちらも単なる“現実逃避”と相違はないわ。」
「客観的思考からは?」
「“他殺”と“自殺”。纏めて“殺人”。それ以上でもそれ以下でもない。」
 事情がどうであろうとそれだけだ、と少しも表情を変えずに述べた彼女の言葉に対し、そりゃそうだと彼は笑う。一方で彼は、彼女から「主観」という言葉が出たことからこの議題の終幕を知る。

 案の定、彼女は溜め息混じりに言った。
「少し疲れたわ…」
「お茶の続きに切り替えるかい?」
「そうね。“会話”に切り替えましょう。」
 彼女はミルクティーに変わったカップの中身をティースプーンでくるくると混ぜた。
 切り替えの時は、この一連の言行が二人の間でしばしば行われている。二人の言うところの“会話”とは、真義の究明的確認などを考えずに唯只管に自己の思想を述べるだけのもので、これまで行ってきたのは差し詰め“問答”といったところだが、辞書通りの意味でないのは自明だ。二人もこの“問答”という表現に関してはしっくりきていない。“承認”という言い方もなくはないが、それもニュアンスが少し異なっているように思われる。
 そして、この“問答”、非常に「疲れ」るのだ。無論脳や身体の肉体的疲労ではない。どちらかといえば精神的疲労…否、そもそも、疲労と称すのも適当ではない。言ってしまえば、そう「怠惰」なのだ。もっと言えば「うんざり」なのだ。
 何の変哲も無い高級マンションの一室で繰り返される“問答”―――当然のことながら、繰り返したところで「セカイ」に影響を与えるわけでもない。ただ自己の内から湧き出る衝動を収めるためだけにある、対象物(者)によって意義の有無が変わるあやふやな言語活動に過ぎない。
「―――意義を求めたところで、所詮は人間の“知る慾”への執念によるものに変わりないわね…」
「虚しそうだね。」
「ええ…とっても。でも、“コレ”をせずにはいられない…人間なんだもの…しなければしないで、逆にストレスが溜まってしまう。そして、何より、もっと惨めな思いになる。」
 唐突に勃興する考えをそのまま口にして、理解を得られたことは殆ど皆無だ。大体が「は?」と前触れなき突然の言葉に対する少々の驚きか「そういうものなんだー」と感心とも受け流しともつかない言葉が返ってくるだけだった―――それは、彼女がそういう類のものを聞くとそこではぐらかしてしまうのも要因ではあるのだが。自己の考えをなんの“間”も持たずにすぐに返してくる人は本当に少ない。結果、自他共に気まずい雰囲気や心痛を感じてしまうことの方が多かった。
 他人【ひと】の反応が普通であるのは分かっているつもりだが、納得までには至らなかった。そこで、彼女は周囲との会話を“必要最低限”に止めることにした。脳の活動が微々たる活性を示すだけでも、より衝動が起こりやすくなるのを決して多くない経験から知っていた。そしてその鍵刺激となるのが「会話」であることも。ならば受け答え以外の会話をしなければ問題ないはずだと思ったのだ。しかしそれはやがて表面に現れる感情を欠落させることになった。両親がそれに気付いて蒼褪めていたのを傍観していた自分を、彼女は今でも覚えている。

「それを防ぐために、俺は君の両親―――特に君の母を介して君に雇われた。」
 彼女の両親はどちらも心理関係の学を修め、父親の方は実業家となり母親の方はカウンセラーの職に就いて今も心理への追及を行っている。
 彼もまた、他より少々達観した人物で、遊び仲間はいても決して自らの本来の思考回路で話すことはなかった。話しても「何を言っているんだ?」という見世物小屋を覗き込んでいく輩のような眼で見てきたり、求めていない質問攻めを喰らって面倒なことになったことがあったので、年相応だと思われる思考回路を別に構築して接していた。その方が無難だった。
 しかし、別設置された思考回路が動く裏側で、表側に出ることなくエネルギーを殺されて静かに稼動していた、本来のソレが思わぬ形で爆発した。
 彼は、場所【ところ】構わず、意味を持った文字の羅列を書き出したのだ。紙類は勿論、机、壁、ガラス窓、床、クローゼットの扉、ベッド、…、果ては浴室やトイレなどなど、本当に場所構わずに、脳内に浮かぶ言葉を現出した瞬間に書き留めていったのだ。今まで押さえつけられていた分のその反動であるかのように…否、間違いなくその反動だった。
 母親からは悲鳴の落雷、父親からは縛と時に拳の風雨―――やがて、カウンセラーをしている彼女の母の元へと連れて行かれた。






To be continued...




 真っ暗闇の心象風景のなかの住人に堕ちたって、煌々しい光を抱いて生きてゆくことができると思ったんだ。それが“視えたもの”に侵食されない限り、ずっと。

この溟い道を生きてゆくと決めたんだ。
「生まれて、生きて、死ぬ―――それが此の世の常、理【ことわり】というものでしょう?」
 彼女の急な発言にもかかわらず、彼は言いよどむことなく、すぐに適当な返事をした。
「『生まれる』『生きる』『死ぬ』という意味について永遠に追究していくのが、『人間』というものだね。」

 彼女が語尾を上げて話すときは限られている。
 彼女はあらゆるものに関して精通している「普通の女性」(といってもまだ20歳にすらなっていないが…)で、暴かれているものから暴かれていないものまで全ての、世界の根源と法則を解しているようにさえ思わされるほど聡い(飽くまで「ように」である)。だから、彼女が語尾を上げて話すときは、「質問をする」という行為を行うためではない。
 また、彼はその普通の女性の「話し相手」であって「解答者」ではなく、彼女のために彼女に雇われた「普通の男性」だ(そしてこちらも20歳を越えていない)。
 彼が、何もかも知り尽くした彼女に雇われて、二年。短いようだが、一方または両者が気の向いた時にアルバイトをしに外へ出払うとき以外は、ほぼ毎日共に過ごしているので、互いの気性は心得ている。
 よって、彼女の問いかけが「Yes」「No」を求めるためのものでないことを、彼は知っている。彼女のソレは、珈琲片手に窓の向こう側を見ていたら何の前触れもなく浮上したコトバに対する確認事項とその先の会話のためのきっかけに過ぎない。


 何の変哲もない高級マンションの高層階にある一室。
 よく陽が当たる窓側に置かれたテーブルと椅子。
 テーブル上に、まだ湯気の立つ珈琲と紅茶、八等分されたベイクドチーズケーキのうちの二個。
 それらを挟んで向かい合う彼女と彼。
 議題は「生死に纏わること」。


「『生まれる場所を選ぶことができない』という言葉が口にされるように、『生まれる』が生まれてくる者にとっての意志に基づいて行われるわけでない、と一般的に言われている。」
「だけど、実際のところを知る人はいない。それがいかにも世の真実だというように叫ばれるのは、母体の体内で発生した胎芽・胎児に“意思”を認められないし、それ以前に確認のしようがないからでしょう。」

「『生きる』は、少なくとも自らの意思と共に行われるものだね。」
「でも『生かされている』と直す者もいる。人知を超えたものの存在に対する信仰心がそうさせるようね。そして、『生きる』ことこそ人生の意義だといわれている。つまり、どういう生き方をするか、ということに重点を置かれていることが多い。」

「『死ぬ』は、自由であって不自由なものかな。望まずとも訪れるし、望んで招きよせることもできる。」
「だからこそ『死』を畏怖したり畏敬したりする。死後の世界を考えることで。―――でも、最近の人間【じんかん】はまた違った種類の人間【にんげん】が出てきているわね。」
「確かに。」


 と、ここで漸く二人とも一息を吐く。
 彼女は甘めの紅茶を一口含んだあと、今度はミルクを注ぎ足してまた一口含んだ。彼も珈琲を口に含むが、次はチーズケーキの一角に手を出した。
「今日のソレ、おいしいでしょう?」
「うん。いつもと違うけど、結構イケるね。」
「先週こっそり開店したところで買ったものよ。静寂【しじま】を愛するマスターの、スイーツとカフェの小さなお店。店の名前は“Carnelian”だったわ。」
「“Carnelian”? それは確か紅い鉱石の名前だったよね」
 和名は紅玉髄。酸化鉄を含んで血のように紅く染まった石英。―――と彼の頭の中の辞書で引かれた。鉱石を店名にするなど珍しいと思う彼に対し、彼女は微笑んで「だからそのお店に入ったの」とだけ応えた。
 彼女もケーキにフォークを入れたところで、元の議題に戻る。




To be continued...


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